Feature
特集記事

2022.9.8 THU

「伝えることに、最善を尽くす。」

前田有紀

「情報」を伝えるアナウンサーから、花に込められた「想い」を伝えるフラワーアティストへ。
伝えるものが変わっても変わらない、仕事への情熱について
DIFFERENTLY池袋東武店の店内ディスプレイを手がけて頂いた前田有紀さんに伺った。

忙しさの中で見失っていたもの。

大学卒業後はテレビ局のアナウンサーとして、10年間仕事をしていました。アナウンサーの経験を重ねていき、仕事が充実する一方で、目まぐるしく不規則な生活の中で段々と自分の暮らしに時間を掛ける余裕がなくなっていました。このまま、この暮らし方をずっと続けていって大丈夫かなぁという漠然とした不安から、少しでも暮らしを充実させようとお花を飾り始めたのが、興味を持ったきっかけです。転職を志したときは花や緑に関わる仕事がしたいという漠然としたところから、どんな世界があるのか掘り下げてみようと思って、2013年から半年間イギリスに留学しました。最初は言葉も通じず大変でしたが、常に見られている仕事から、自分を知っている人がいない場所で、何も拘束されることがない生活にすごくほっとしていました。

新しい世界で、湧きあがった想い。

帰国後、庭のことと花のことも実践的に学べるフラワーショップで働こうと思って、自由が丘の「ブリキのジョーロ」というフラワーショップで3年間修業しました。今までのテレビ局のスケジュール感からは解放された気持ちでいたのですが、花屋は花屋で特殊なワークスタイルで、朝の仕入れから閉店までの長時間、割とハードな働き方。それでもテレビ局を経験してきたので、そこまで辛くは感じませんでした。逆に思いっきり新しい世界に飛び込んでの仕事というのを楽しんで修行を積んでいました。お店で学ぶべきことを学んだら、自分なりの方法でお花を表現したい、花の裾野を広げるために「伝える」っていうことをしながら、花を届けられるようにしたいなと思って自分のブランドを立ち上げました。

難しい仕事に込められたメッセージ。

自分のブランドを立ち上げてから、最初は友達のお誕生日のブーケを製作したりというのが中心だったんですけど、年月が過ぎていくごとに、パーティーの装飾などの大きなものだったり、アパレルの展示会や撮影に使うお花をスタジオで美術チームと一緒に作ったり、企業とのコラボレーションにまで幅が広がっていきました。その中で一番印象に残っているのが、真っ白のスタジオに青い花で花畑を作って欲しいという依頼です。自然の世界では青いバラは作れないって言われているほど、青の色が出る花って限られていて、すごく難易度の高いオーダーだったのですが、カスミソウを青く染めて青い花畑を作りました。この仕事がきっかけでお花を染めるとすごく表情が変わるという発見があって、それから興味を持って、染の花の本も出しました。なので、そういった難易度が高くて難しいなっていう案件も、一緒に働くチームの仲間たちと色々話したり、相談したりする中で頑張って答えを出していくと、そこからその先に繋がっていくことを実感できた仕事でした。

「本物」が放つ魅力を、より広く伝える。

花屋でたくさん並んでいるので、お花が並んでいるのが当たり前のことのように思ってらっしゃる方も多いと思うのですが、お花を作る場である農園に足を運ぶと、一つも当たり前のことはなくて、1本1本手仕事で収穫したお花は、1本1本が違っていて、宝物みたいに大切に育てられたものなのなんです。それをお客様にも伝えてこそ、そのお花がありふれたものからたった一つの特別なものに変わっていくのかなって思っています。セレクトショップであるDIFFERENTLYさんが、セレクトしたアイテムの背景にこだわり、それをお客様に伝えようとしているのと似ているかもしれませんね。

花からはじまる、社会貢献。

仕事を続けていくうちに、お花自体をもっと循環させたいなっていう気持ちがどんどん強くなってきました。私が手がけるブランドのguiでは、売れ残ったお花だったり、撮影とかで一日だけしか使わなかったものや、まだ綺麗なお花を児童養護施設などに寄付しています。役目を終えたり、売れ残ったものも少しでも社会の役に立てるように、活用できたらいいなと思っていろいろと取り組んでいます。

誠文堂新光社「染めの花 フラワーデザイン図鑑」より写真/ 三浦希衣子

すぐそばに花がある暮らしを目指して。

今後の野望はたくさんあるのですが、当面は、自分が今2人の子育てをしているので、小さな子ども世代に花の魅力を伝えていくことで、その子たちが大人になったときに、暮らしの中でお花や自然への想いが変わってくると思うので、子どもたちに花に触れさせてあげる体験を届けるっていうのは力を入れてやっていきたいなと思っています。あとは、やっぱり自分がおばあちゃんになるときまでに、都会の暮らしの中で、忙しい方でも当たり前にお花を飾ったりしているところをこの目で見たいですね。街を歩いていても、みんな花を飾るのが当たり前だったり、窓辺から花が見えたり、そういう世界を日本で実現出来たらいいなと思っています。その為にできることをどんどんやりたいです。常に挑戦していたいですね。花や緑が暮らしにもつながったりするので、範囲をどんどん広げながら、表現の幅を広げたいな、と思っています。

誠文堂新光社「染めの花 フラワーデザイン図鑑」より写真/ 三浦希衣子

前田有紀Maeda Yuki

10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで3年の修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい」という思いから2018年秋に自身のフラワーブランドguiを立ち上げ、2021年4月に神宮前にNURをオープン。2022年5月に初の著書「染めの花 フラワーデザイン図鑑」(誠文堂新光社)を出版。

Other articles