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2021.04.01 THU

「“良い音”を、ボーダーレスに探し続ける。」

村田善行

バンドとバイトの毎日を過ごした中学高校時代を経て、東京で"世界同時進行"の音楽の熱量にさらされた20代。先入観のないフラットな視点を持ちつづける村田さんに、その原点と仕事へのこだわりを聞いた。

楽器を買うためにバイトに明け暮れた中高時代。

出身は長野県の佐久っていう軽井沢の奥の方です。小学校5年生でギターを持ってから音楽をやってて。バンドも組んで。中学生の頃から、年ごまかして土建のバイトとかしてて、夏休みとかは朝から晩までバイト。それで結構高い楽器を買ったりしてました。高校になるとパンク、ハードコアみたいなエクストリームミュージックに出会って。あとはスケボーもやってたんですけど。そこで海外の文化が自分の中でいろいろと混ざってきて。「かっこよければなんでもやる」って言うスタイルができあがりつつ、高校でもずっとバンドとバイトしてました。

酸欠状態の、狭い場所から見えたもの。

高校を卒業して、バンドメンバーで「東京に行こう」みたいな感じになって、みんなは専門学校に行き、僕はずっとバイトで働きながら、ずっとバンド。その流れで98年かな。下北沢のライブハウスに従業員として入った。凄かったんですよとにかく。かっこよさが尋常じゃなくて、熱量しかない。世界同時進行の世界があった。アメリカが一番だと思っていたのが、日本の方が先を行く文化もあって。ライターの火がつかないくらい酸欠状態の狭い場所にいるうちに、ふと自分でバンドをやる気力がなくなった。なんか自分でやる必要ないなと。かっこいい人もいっぱいいたし、なんかやろうにもあの人たちもうやってるじゃん、て。

"変な楽器屋"で、みんなが欲しい音を探る日々。

一年くらいプラプラしてたんだけど「楽器好きだろ?」ということで"変な楽器屋"として紹介されたのが今の会社。そこから一度も辞めてないので22〜23年はずっとここにいる感じです。元々はパーツや部品を売るメーカーだったんですよ。フェンダーとかギブソンを買うのではなくて、自分の好きな部品で好きなギターを組み上げる。それを当時から日本でやっていた。ただ、ギターはパーツを寄せ集めても完成するわけじゃない。プラモデルじゃない。それならパーツじゃなくて楽器を作った方がいいじゃん、という発想になってきた。僕はどういうギターがみんな欲しいんだ?今ウチらが作るんならどんなギターだ?って考えながら制作側とやり取りする役割をしてました。

甘いものが食べたい人には、甘いものを。

僕には楽器屋として持論があって、それは「静かでもうるさくても、いい音は絶対にある」ということ。言葉に出来るものじゃないので「分からない」という人が多いんですけど。実は分かっているはずなんですよ。だってあそこのライブハウスは音がいいとか、あの車が出す音がいいとか。みんな言いますよね。つまり、いい音はある。パンクでもブルースでもいい音は決まっていて、そこから外れた楽器は、違うんじゃない?と言ってあげるのも僕の仕事。それはケーブル一つとっても同じ話。あなたの目指したい音にとって、この2,000円のケーブルは30,000円のケーブルよりもいい音出るよ、と正直に言う。プロなんだから、それくらいやらないといけない。甘いもの食べたい人に辛いもの出さないですよね。味覚だと簡単なんですけど、音の場合は言葉にするのが難しいんです。

ジャンルを追わず、"いい音"を追う。

自分の強みは、いいものはいいと思えるところ。CD屋で新作だからっていう理由で買ったことないんですよ。スケボーのビデオ見てるときに流れてる音楽がカッコよくて、これ誰だろう?と調べて買いに行ったり、自分の好きな人が「かっこいい!」と言っている音楽の方が響いたりする。あんまりジャンルで追うってことがないんですよね。パンクがいいと言ったらパンクを聞いてみて、ジャズがいいと言ったらジャズを聞いてみて。そうするとスッと入ってくる。お客さんにもそういう風にしたい。あんまりジャンルで話をしない。音として捉える。こうだからこうと決めつけない。別にこれじゃなくてもこの音は出せるよと言ってみたり。それは他の人にはなかなかできないとよく言われます。

ファッションという、ボーダーレスな魅力。

影響を受けたものは音楽以外なら圧倒的にファッション。なんならそっちの方が面白かった。バンドマンは凝りかたまるので。俺はパンクだ!とか、俺はパンク聞かない!とか。裏原文化みたいなのが出てきたとき、彼らは「全部混ぜてるな」と思った。ボロボロのジーンズにルイヴィトンみたいな。パンクとジャズとアートをくっつけたNYスタイルやパンクとダンスミュージックをくっつけたマンチェスタースタイルとかに通じる、そういったミクスチャーな考え方が面白かった。そういう感覚が根付いているんですよね。極端なもの同士をくっつけた方が面白いみたいな。そこらへんも完全にそう言うファッションから受ける影響が大きかったですね。

今回のデニムを履いてみて。

ヨーロッパ系はシャレオツ過ぎてこそばゆいと思っているんですけど、これは形がクラシックだし、パッチの色が放牧的・アメリカンな質感もあって。それこそミクスチャーですよね。軽く・履きやすく・ヨーロッパな感じだと思いました。40才越えてダメージ系はやばいと思っていたんですけど、大人が履いても恥ずかしくない。がっちり系は重いんですけど、これは軽くて履き心地がいい。馴染みがいいです。重いものを運ぶ仕事も多いので、そういう時に履くのも楽だと思いました。

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